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福岡地方裁判所 昭和46年(わ)434号 判決 1974年10月03日

本籍

韓国慶尚北道月城郡西面雲防里六二九番地

住居

福岡県北九州市若松区西天神町二番六号

金融業

坂本昇こと

伊漢龍

昭和二年五月二七日生

被告人に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官井口衛出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月及び罰金五〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、北九州市若松区西天神町二番六号所在の自宅において、金融業を営んでいるものであるが、所得税を免れる目的で、収益の一部を親族名義等で預金したり、他からの借入金を水増するため虚偽の借用証書を作成するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和四三年度の実際の所得金額は二、五八六万七、七三四円で、これに対する正規の所得税額は一、二六〇万八、三〇〇円であるのに、昭和四四年三月一五日、同市同区白山町所在の所轄若松税務署において同税務署長に対し、被告人名義で所得金額八一万六、八九六円で、これに対する所得税額一、三〇〇円及び朴基喆名義で所得金額三一万九、〇八〇円で、これに対する所得税額一万五、四〇〇円である旨の各虚偽の確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右の正当所得税額と申告所得税額との差額一、二五九万一、六〇〇円を逋脱したものである。

(証拠の標目)

一、第一回、第一〇回及び第一六回公判調書中の被告人の供述部分

一、被告人の検察官に対する供述調書六通及び大蔵事務官に対する質問てん末書一八通

一、正金相互銀行若松支店長沖川文治(七通)、福岡相互銀行若松支店長南次郎(三通)、山口銀行八幡中央支店長稲田芳雄(二通)、同銀行若松支店長窪田順彦(二通)、福岡銀行若松支店長松本辰已(二通)、山口相互銀行若松支店長長峰利治(二通)、長崎相互銀行若松支店長楠本辰美(一通)、信用組合山口商銀下関支店長山田幸次郎(一通)、富士銀行八幡支店長前田宏(一通)、各作成の銀行取引内容に関する証明書(取引相手の名義は、坂本昇、但し房今連、房村応市、伊原清、穴見倉蔵もしくは大野茂名義のものを含む)

一、大蔵事務官に対する穴見倉蔵、相原虎雄(二通)、久保一男(二通)、奥野公子(二通)、奥野フミ子(二通)、今井敏充、今村政男、大庭省吾、大庭博文(二通)、大石義成、南治雄(二通)、門屋肇、兼平敏郎、藤田久子、近藤作一、岡田茂こと朴鐘(二通)、山村喜久雄、清水義則(五通)、竹田芳祥(二通)、高崎利生、田中熊太(三通)、常賀義彦、手島新策、山口雄造、中島サダ子(二通)、永田洋生(三通)、野村義則こと朴基喆(五通)、野間泰治、林昌詞(二通)、広松康伸、藤村章(三通)、藤田誠一(二通)、藤崎範彦江藤光雄、益田稔、松尾宗助、松下善寿、前田辰雄、森田桓一、山本光男(二通)、末満豊、横田ヤチヨ(二通)、松尾正喜、中沢誠之助、中川芳子、佐野邦彦、岡部義隆(二通)、関昌雄(二通)、前村義雄、坪根克己、佐伯竹之(二通)、酒井靖史、広沢正彦、岡部啓、梅田甚三郎、中村為之(二通)、関矢直(三通)、長谷川清、大我政弘(二通)、松本利秋、青松彦変こと沈彦変、小野一芳、田中数夫、田中正人、金徳守(二通)、坂本政市、徐安萬、李承、韓相必、岡本斗遠、王奇錫、房金連(二通)、伊清、見島久人、磯田進、永田親孝、石井忠一、竹中力夫(二通)、浅野芳雄、浅野梅太郎、日高敏行、武富福治郎(二通)、古田恵美子(四通)の各質問てん末書

一、検察官に対する大庭博文、清水義則、野村義則こと朴基喆、松下善寿、梅田甚三郎、関矢直(二通)、青松こと沈彦変(二通)、房今連(三通)、浅野芳雄、浅野梅太郎、日高敏行、山下益弘、武富福治郎、古田恵美子(五通)、竹中力夫の各供述調書

一、今村政男、橋本元彦(二通)、永田洋生、益田稔、横田ヤチヨ、中川芳子、広沢正彦各作成の答申書

一、門屋肇、山村喜久雄各作成の確認書

一、第五回、第六回公判調書中の証人横田ヤチヨの各供述部分

一、九州相互銀行戸畑支店次長中石三郎作成の不動産価格についての回答書

一、日本不動産研究所福岡支所長藤崎山太郎作成の不動産鑑定評価書

一、大西芳雄作成の「鑑定書」と題する書面

一、北九州市若松区長小林太四一作成の固定資産税納付状況回答書

一、八幡財務事務所長門司豊己作成の不動産取得税納付状況回答書

一、北九州市水道局若松営業所長三原進作成の水道使用料回答書

一、北九州市交通局長芳賀茂之作成のバス定期旅客運賃回答書

一、九州電力株式会社若松営業所長藤本信夫作成の電灯使用料回答書

一、若松電信電話局長森禎納作成の電話料金納入状況回答書

一、吉松軍蔵作成の「坂本昇氏との取引について」と題する書面

一、福岡県若松財務所長山脇重喜作成の事業税等納付状況回答書

一、株式会社ヤナセ福岡支店北九州営業所長柴田吉雄作成の減価償却証明書

一、検察官作成の報告書

一、福岡銀行小倉支店長岸本博作成の申請書の写し

一、日本銀行北九州支店長作成の回答書

一、大蔵事務官八尋太作成の「起訴後の修正損益計算書の提出について」と題する書面

一、登記官相本三松、同菅祝久、同富岡靖幸各作成の土地登記簿謄本

一、被告人作成の上申書

一、大蔵事務官作成の告発書

一、押収した不動産売買契約証書一綴(昭和四七年押第二号の四)、土地売買契約書類(同号の五)、土地売買契約書一通(同号の六)、四三年分の所得税確定申告書一枚(同号の八)、土地売買契約書一枚(同号の九)、金銭出納簿一綴(同号の一〇)、念書一綴(同号の一七)、領収証一枚(同号の一八)、四三年分の所得税の確定申告書一枚(同号の二五)、四三年分の譲渡所得、納税相談兼申告審理事績書(同号の二六)、普通預金払戻請求書二枚(同号の六二及び六三)、集計用紙一冊(同号の六七)、小型ノート一冊(同号の六九)

(弁護人及び被告人の主張に対する判断)

弁護人及び被告人は、(一)被告人が黄斗漢から昭和四〇年八月から昭和四三年六月までの間に、前後八回に亘つて合計金三、八〇〇万円を借受け、昭和四三年度中に同人に対しその利息金として合計金一、九三六万円を支払つており、更に(二)昭和四三年度中における被告人の伊藤正之、近藤作一、中村政美、山田政喜、横田昭次らに対する貸付金のうち合計金一、七七七万三、〇〇〇円が貸倒損となつているので、結局被告人の昭和四三年度の事業所得は差引計算で欠損となり、全く所得がなかつたものである旨主張する。よつて、案ずるのに、右(一)の主張については、証人黄斗漢は被告人の右主張に副うような供述をするが、右供述は到底信用するに足りない。即ち、この点に関する検察官援用にかかる各証拠に徴して、検察官主張の黄斗漢の右供述の信用性を疑わせる諸事実がすべて肯認される上に、黄斗漢の供述自体に不自然、不合理なものが多くて、これが措信し難く、被告人の主張援用する右支払利息に関する「領収書」二九通(昭和四七年押第二号の31ないし59)もすべて虚偽のものと認められ、従つて被告人らの右主張は採用できず、更に右(二)の主張については、この点に関する検察官援用にかかる各証拠に徴して、検察官主張のように被告人の前記伊藤正之外四名らに対する合計金一、七七七万三、〇〇〇円の各貸金債権は、いずれも昭和四三年度内にその債務者が支払不能となり、これが貸倒損として所得控除すべきものとなつていたとは認められないので、被告人らの右主張もまた採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は所得税法二三八条一項に該当するので、その所定の懲役刑と罰金刑とを併科することとし、右刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役六月及び罰金五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文に従つて全部これを被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川宜夫 裁判官 畑地昭租 裁判官 山浦征雄)

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